5編のリドルストーリーに込められた想いとは?『追想五断章』米澤穂信
大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語」を探して欲しい、という依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかりー。五つの物語に秘められた真実とは?青春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。
タイトルについて
よく見ると中央にフランス語のような文字が書かれていますね。
「断章」という単語は聞き慣れないものでしたが、辞書によると「詩や文章から抜き出した一部分」とのこと。
つまり5編から成る物語なのだろうと想像ができますね。
装丁・表紙について
よく見ると中央にフランス語のような文字が書かれていますね。
恐らく「Cinq Fragments de la Mémoire」と書かれていると思いますが、「Cinq=五」、「Fragments=断片」、「de la Mémoire=記憶の」って感じでしょうか。
つまりタイトルの『追想五断章』ってことでいいんですかね?
そして表紙自体もストーリーに登場する古書店などと同様、レトロな雰囲気なのが良いですね。
ストーリーや私的思い入れ
まず本作は「リドルストーリー」という体裁をとっています。
リドルストーリーとは、結末を曖昧にして読み手に委ねる手法(物語)のことです。
挿入されている5編からなる物語(リドルストーリー)は、それぞれ独立させても非常にエンターテイメント性の高い作品となっているのですが、それぞれを『追想五断章』として統合することで全く新しいストーリーを紡ぎ出しています。
本作は主人公・菅生芳光が、北里可南子の依頼を受け5つのショートストーリを探す物語ですが、このストーリー構成、米澤穂信の手腕がいかんなく発揮されていますよね。
作中で登場する「アントワープの銃声」というキーワードや結末への期待感が、ページをめくる手を止めさせません。
リドルストーリ(明確な結末のない物語)の特徴や本作における役割を考慮すると、比較的謎の核心部分には近づくことができるかもしれませんね。
そして、最後のリドルストーリーである「雪の花」の見せ方は本当に上手いと感じました。
本作の結末はネタバレ感想を一読するのではなく、ぜひ実際に書籍を手に取って読んで頂きたい一作です。
-
前の記事
青春ミステリの名作『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』十市社 作成日:2021年4月28日
-
次の記事
唯一無二のエンタメ小説『ディスコ探偵水曜日』舞城王太郎 作成日:2021年5月12日