少年少女の甘酸っぱい恋模様『百瀬、こっちを向いて。』中田永一
「人間レベル2」の僕は、教室の中でまるで薄暗い電球のような存在だった。野良猫のような目つきの美少女・百瀬陽が、僕の彼女になるまでは―。しかしその裏には、僕にとって残酷すぎる仕掛けがあった。「こんなに苦しい気持ちは、最初から知らなければよかった…!」恋愛の持つ切なさすべてが込められた、みずみずしい恋愛小説集。
「BOOK」データベースより
タイトルについて
このタイトルを書店で目にして気にならない人はいるのか!?
それくらい個人的に衝撃的なタイトルでした。
ストーリーも全く知らない状態で「百瀬」という固有名詞が登場しているにもかかわらず、「こっちを向いて。」と言っている「誰か」の切実な気持ちが伝わってくるようです。
また、「百瀬」というありふれてはいないけどそこまで多くはない名字も良いですよね。
これが「朝比奈」とか「小鳥遊」とか「四月一日」だとちょっとサムいです。
まるでファウルラインギリギリに転がしたバントのような絶妙さです。
装丁・表紙について
真っ白!
そこにタイトルと著者のみの文字。
シンプル、ここに極まれり。
ストーリーや私的思い入れ
本作は短編小説で、表題作『百瀬、こっちを向いて。』を始め、『なみうちぎわ』、『キャベツ畑に彼の声』、『小梅が通る』の4篇で構成されています。
そしてそのいずれもが心に響く「本格ラブストーリー」となっています。
本格ラブストーリーって何やねんって気もしますが…。
まぁとにかく読んで損はないラブストーリーということは間違いありません。
ちなみに著者の「中田永一」はあの乙一の別名義。
ホラーやミステリのときは「乙一」名義で、ラブストーリーは「中田永一」くらいに覚えておけばOK。
乙一と言えば、デビュー作『夏と花火と私の死体』や『GOTH』のイメージが強いですが、こんな純な作品も書けるんですよねー。
とりあえず表題作『百瀬、こっちを向いて。』について語るとですね、ヒロイン(?)の百瀬陽が可愛いんですよねー。
ツンデレと言うか、徐々に主人公・相原ノボルに心を開いていく様子なんか、読んでいてニヤッてしちゃいますね。
ありがちな展開だと一言で言ってしまうのは簡単ですが、そこは乙一の作品。
結末には「おっ」と思わせる展開もあり、タイトルの『百瀬、こっちを向いて。』と、とある人が口にするシーンなんかは、青春時代を思い出しました。
まぁある人ってのはノボルなんですが。
これはネタバレではないですよね。
そして、いずれの短編についても、ページ数が少ないながらも少年少女の恋愛模様が瑞々しく描かれており、こういった作品を毛嫌いする方も騙されたと思って手にとってくだされば良いなって思います。
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